4/6に3年ぶりに発売されたマエケンの新作。
発売から少し経ってだいぶ自分の血肉になってきたので、試しにレビューしてみようと思います。
【全体像】
音像は初期の3作「ロマンスカー 」、「さみしいだけ」、「ファックミー」に似て、インディー音楽らしい粗めの仕上がり。
前作「サクラ」やジム・オルークプロデュースの2作がリッチなプロダクションだったので、久々の作風がかえって新鮮。また、「サクラ」が日本の名盤!と言いたくなる風格を漂わせていたのに対し、こちらはファン好みの珍盤という風情。
ただ、初期3作と大きく異なるのは低音ボイス。前作収録前に低音がしっかり響くようにボイトレをしたとのことで、今作でも健在。
ピアノがフィーチャーされた曲も多く(1,2,4,6,7,)、「前野健太と世界はひとり」から参加されている佐山こうた(Pf.)がガッツリ貢献。ジャズをベースにしつつ、遊ぶようなフレージングが聴いてて飽きません。
30分と少しの収録時間も、リピートしやすく丁度いい。実際、しばらくこれしか聴いてません。
【全曲レビュー】
1.ポルトガル
異国情緒あふれる、軽快でありながらもの悲しいピアノに導かれ、ポルトガル語とおぼしき言語で歌うマエケン。日本語だとこの雰囲気はまず出ない。
低音ボイスとあいまって最高。
最後だけ日本語。やっぱり意味がわからない。
2.わたしの羽
こちらもピアノが印象的。エレキギターとのコールアンドレスポンスが情熱的に絡みあい、マエケンの歌も熱を帯びる。
3.MAXとき
80'sサウンドのようなシンセサイザーの音から始まり、いつものギターサウンドに突入。
コーラスの「ドキドキ」「にぎにぎ」が楽しすぎる。
これまでのライブでも何度か歌っていて、こんなんちゃんとした歌にならんやろ、と思ってたのに、ちゃんとなってる不思議。
これまた間奏のピアノとギターのからみ合いが最高です。
去りゆく者へのシンパシーを歌う曲としては、「今の時代がいちばんいいよ 」収録の「吾郎」を彷彿とさせます。
前野健太 - MAXとき (引退直前ver.) - YouTube
4.恐縮でございます
「たいへんスケベそうな顔してらっしゃいます」「恐縮でございます」というフレーズを使いたいがための楽曲。
場末のバーのようなピアノから始まり、ギターのじゃ~んからキャバレーっぽいサウンドに一変するのがききどころ。それをきかせたらさっと終わる潔さ。
5.マシッソヨ・サムゲタン
これまで何度もライブ会場をシンガロングの渦に叩き込んできたアンセムがいよいよアルバム収録。
情念の立ち込めるようなゆらゆらしたギターとボーカルに、おバカな歌詞にも関わらずサムゲタンよろしく熱くなる。
ライブとは異なり、フュージョン風にテンポアップしてエンディングへ。今後のライブ演奏も楽しみ。
6.秋の競馬場
前作「アマクサマンボ・ブギ」に続く競馬ソング。
優しく歌うマエケンと、それに寄り添うようなピアノ。
飲み屋から笑い声が聞こえ、月が輝いている。
最初は子供らが遊んでたのに、最後は大人が遊び回ってる。
7.サマースーツ
シリアスなサウンドと、ホームレスやサラリーマン&サラリーウーマン、そしてそれを見ている自身の日常が描かれる歌詞のアンビバレント。
8.近い将来について話している
こちらはギター弾き語り。
二階の窓辺というフレーズが、「100年後」の待ちあわせを思わせる。
9.戦争が夏でよかった
こちらもライブで披露されていた楽曲。
タイトルにもなっている歌詞がうまく解釈できなくてあまり好きではなかったけど、改めてアルバムで聞くと、じっくり聞いて好きになってきました。
心がまだ凍てついているからであり、声がまだ空や海の中にこだましてるから、熱い夏がいい。
強烈なタイトルが引っかかって、気になりすぎていつの間にか好きになる、マエケンのアルバムにいつも入ってる人間讃歌の最新版。
PVはこちら
10.白い病院
白い病院で透明のケースの中で眠る…赤ちゃん?
11.みかん
聞き重ねることで一番印象が変わった曲。
さすがにこの性急なビートはマエケンには合わないと思っていたのに、いつの間にかクセになって重要曲に格上げ。それを見越したようにCDトレイの中に潜むみかんの写真。
12.いい予感
こちらも何度かライブで取り上げられていた曲。
一つ前の「みかん」と歌詞中の「伊予柑」で、なぜか柑橘系を印象づける。
やさぐれた女性視点の歌詞は「ねえ、タクシー」を思わせる。
13.ワイチャイ
1.ポルトガルと対をなす、異国の言葉とおぼしき歌詞。ここまであっという間の30分。きっとアナタも、気づいたらまた「ポルトガル」から聞き始めていることでしょう。